柳宗理は「用の美」に通じる道具を数多く手がけたデザイナー。その審美眼は、他のデザイナーやメーカーのプロダクトを選ぶ際にも絶対的な基準として働いていたようです。
そこで今回は、柳宗理のエッセイのなかで、自身がお気に入りのプロダクトとして紹介している商品を11つ紹介します。どれも比較的簡単にネットショッピングで手に入れられますので、日常生活や仕事で長く使える逸品として手に入れてみてはいかがでしょうか。
なお、本記事においては、以下の書籍を参考にしました。
柳宗理(2005).柳宗理 エッセイ 平凡社
柳宗理が愛したプロダクト11選
柳宗理は「新しい工藝」「生きている工藝」といったエッセイやインタビューにおいて、自身のお気に入りのプロダクトを披露しています。今回は、そのなかから現在も購入可能なプロダクトを中心に紹介します。
- ブラウン製 卓上コンピューター(電卓)
- Zeroll(ゼロール)製 アイスクリームスクープ
- SIGG(ジグ) 水筒
- ウェグナーの椅子(PP203)
- アルネ・ヤコブセンの椅子(スワンチェア)
- Keller(ケラー) 木製玩具
- 亀の子たわし
- 出西窯(しゅっさいがま)の小皿
- 化学実験用蒸発皿
- カイ・フランク 1610 Pitcher(ピッチャー)
- ラミーのボールペン・万年筆
1.ブラウン製 卓上コンピューター(電卓)
ブラウン製の卓上コンピューター(電卓)「ET66」(現在復刻販売されている型番はBNE001)は、ドイツのプロダクトデザイン界の巨匠ディーター・ラムスが手がけた、ミニマルで機能美にあふれた一品です。
1980年代の名作として語り継がれており、直線と曲線を巧みに使い分けたフォルムと、落ち着いたカラーリングが特徴。まるで彫刻のようなたたずまいで、インテリアとしても存在感があります。ちなみに、iPhoneの電卓アプリのデザインは、このET66がモデルになっているといわれています。
柳宗理がこの電卓を高く評価した理由は、日用品でありながら、機械的な冷たさを感じさせない点です。ディーター・ラムスのモットー「Less, but better(より少なく、しかしより良く)」という思想は、柳宗理のプロダクトデザインとも共通する価値観だといえるでしょう。ET66に見られる人間的な温かみも、柳宗理の作品を連想させます。
現在、「ET66」は復刻版として販売されています。日々の仕事や家事の相棒として、歴史的な名作をデスクに構えてみてはいかがでしょうか。
2.Zeroll(ゼロール)製 アイスクリームスクープ
ゼロールのアイスクリームスクープは、アメリカで1935年に誕生したキッチンツールです。プロの料理人はもちろん、家庭でも長く愛用されてきました。丸みを帯びた一体型のフォルムは美しく、機能性とデザイン性の両立が魅力です。
ゼロールのスクープは熱を効率よく伝える構造で、手の熱が先端に伝わることで、硬いアイスもなめらかにすくえます。冷凍庫から出したばかりのカチカチのアイスには、スクープを軽くお湯に浸してから使うと、球状に取り出しやすくなります。
柳宗理がこのスクープを特に好んだのは、抜群の機能性に加え、伝統的な農具を思わせる力強く健康的なフォルムにありました。柳はこの製品に、工業製品でありながら「民藝精神」が息づいていると語っています。
3.SIGG(ジグ) 水筒
SIGG(ジグ)の水筒は、スイスで生まれたアルミ製の携帯ボトルです。その軽さと高い密閉性により、世界中で長く愛用されています。
無駄をそぎ落としたシルエットと、日常で使いやすい実用性を備えたデザインは、まさに「用の美」の表れです。アルミ一体成型のボディはつなぎ目がなく、清潔に保ちやすい構造。ねじ込み式のキャップもしっかりと閉まり、携帯時の安心感があります。
柳宗理は、敬愛する建築家ル・コルビュジエの「装飾のないところに装飾がある」という有名な言葉を引きながら、SIGGの水筒の美しさと実用性を高く評価しました。
4.ウェグナーの椅子(PP203)
※上記写真の画像はPP203ではありません。
PP203は、1969年にデンマークの巨匠ハンス・J・ウェグナーがデザインし、PPモブラーが製作したアームチェアです。「ザ・チェアをより手頃な価格にしたい」という発想から生まれ、装飾をそぎ落としたシンプルさが魅力です。背のカーブや接合部の「契り」が美しく、北欧家具らしい温かみを持ちながらも、現代の空間にもなじみます。
柳宗理がPP203を好んだ理由は、ウェグナーの椅子全般に感じられる素朴さと、クラフトマンシップ(職人芸)を感じさせる独特のふくよかさでした。PP203の控えめでありながら確かな存在感は、道具としての誠実さを重んじた柳宗理の審美眼に響いたのではないでしょうか。
5.アルネ・ヤコブセンの椅子(スワンチェア)
スワンチェアは1958年、デンマークの建築家アルネ・ヤコブセンがSASロイヤルホテルのために設計したアームチェアです。直線を排した白鳥のような曲線美が特徴で、今もモダン家具の象徴として愛されています。
背もたれとアームが一体化した包み込む形状で快適な座り心地を実現。アルミダイキャスト製の回転ベースを備え、張地はファブリックやレザーから選べます。初期モデルは希少な一体型ベース構造を持つため、ヴィンテージ市場で特に高く評価されているようです。
このスワンチェアについて柳宗理は、「まるで蓮の花弁に座ったような静かで落ち着いた気持ちになる」とユニークな感想を述べています。温かでふくよかなフォルムに魅力を感じている点は、ウェグナーの椅子への愛着と通じるものがあるといえるでしょう。
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6.Keller(ケラー) 木製玩具
Keller(ケラー)の木製玩具は、150年以上の歴史を持つドイツの老舗ブランドです。1864年創業以来、堅牢なブナ材を使い、シンプルで美しいデザインの車やバスなどを作り続けてきました。1940年代からは車のおもちゃを中心に展開し、その品質は「ドイツ一番」と称されるほど高く評価されています。
形は丸みを帯び、手になじむよう計算されたフォルムが特徴です。塗装は鮮やかでありながら木目の温もりを感じられ、子どもが握っても安心ななめらか仕上げ。人形を乗せたり下ろしたりできる構造は、指先の発達やごっこ遊びにも役立つでしょう。赤や白木などカラーバリエーションも豊富ですので、好みに合わせて選べます。
柳宗理は、このかわいらしいフォルムとともに、その柔らかく温かな触感も絶賛し、幼児が触れる材質としてこれ以上の物はないとまで絶賛しています。小さな子どものうちから質の高い玩具に触れてほしいと感じているなら、ケラーの木製玩具を選んではいかがでしょうか。
ちなみに、柳宗理は「亀車」「鳩笛」といった木製のおもちゃ、飾り物をデザインしています。これらは、現在は入手困難ですが、オークションサイトなどで出回っています。
7.亀の子たわし
亀の子たわしは、1907年に西尾正左衛門が発明した日本を代表する生活道具です。
スリランカ産のパーム繊維を針金で挟み、楕円形に成形したシンプルな構造は、誕生から100年以上経ってもほとんど変わっていません。他のたわしと比べると、パーム繊維の適度な硬さが特徴です。汚れをしっかり落としながらも、鍋や野菜を傷つけにくい絶妙な弾力があるため、台所のみならず掃除全般で活躍するでしょう。
柳宗理は「用即美(ようそくび:使うことがそのまま美しさとなる)」、「無有好醜(むうこうしゅ:醜い、美しいを越えた境地)」という言葉で亀の子たわしを讃えています。
8.出西窯(しゅっさいがま)の小皿
出西窯の小皿は、民藝運動の精神を受け継ぐ器として、柳宗理の審美眼にかなった逸品です。島根県出雲市の出西地区で1947年に創業し、戦後間もない頃から共同体的な運営を続けてきました。柳宗悦や河井寛次郎ら民藝の巨匠たちの指導を受け、使いやすさと美しさを兼ね備えた日常の器を現在も作り続けています。
この小皿の魅力は、形の素朴さと釉薬の奥深い色合いにあります。黒釉、白釉、飴釉などの伝統色に加え、呉須釉から生まれる鮮やかなコバルトブルーは出西窯の代名詞。さらに、地域特産の来待石を用いた釉薬は、粒子の細かさと耐火性から独特の青みと温かみを生み、同じ色でも釉薬のかかり具合などによって一枚ごとに異なる表情を見せます。
柳宗理自らも「柳宗理ディレクション出西窯シリーズ」として、丸皿、丸鉢、黒土瓶、湯呑、徳利、飯椀、盃などの製品を手がけています。
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9.化学実験用蒸発皿
化学実験用蒸発皿は、耐熱性のある磁器製で、液体を加熱して溶媒を蒸発させ、沈殿や固体成分を得るための実験器具です。形状は底がやや深く、丸底や平底のタイプがあり、注ぎ口を備えるものもあります。一般的に1050℃程度まで耐えるため、直火や高温での使用にも耐えます。
柳宗理がこの実験器具を日用品として意識したのは、著名なデザイナーであるイームズの自宅を訪れたときのこと。砂糖入れとして実に自然に使っているイームズのセンスに感心したといいます。
イームズの自宅にあったプロダクトは不明ですが、化学実験用蒸発皿はネットショッピングで手軽に購入できます。インテリアの幅を広げる小物として、イームズにならって採り入れてみてはいかがでしょうか。
10.カイ・フランク 1610 Pitcher(ピッチャー)
フィンランドを代表するデザイナー、カイ・フランクは「フィンランドデザインの良心」と称され、20世紀の北欧デザインを語るうえで欠かせない存在です。彼の思想は、華美な装飾を排し、機能性と普遍性を両立させることにあり、戦後の大量生産の時代には「誰もが使いやすく、長く愛用できる器」を目指しました。この点において、柳宗理の信条とおおいに共鳴する部分があるといえるでしょう。
柳宗理が工房で愛用していたプロダクトの一つは、おそらく「1610 Pitcher」です(プロダクト名を述べていないので、正確なところは不明ですが)。柳宗理は、カイ・フランクのガラス製品全般を自然な形だとして高く評価していました。
柳宗理はお水や氷を入れる容器として愛用していたようですが、ミルクやジュース、スムージーのピッチャー、ワインのデカンタなど、いろいろな用途が考えられそうです。そのほか、1960~1964年の5年間だけ製作された幻の逸品「KF503」も所有しています。
※出典:MAGAZINE HOUSE「BRUTUS Casa 柳宗理」
11. LAMY(ラミー) Safari(サファリ)のボールペン・万年筆
ラミーはドイツのハイデルベルクに本社を持つ筆記具メーカー。2024年からは三菱鉛筆の傘下に入っており、三菱鉛筆の「ジェットストリーム」をボールペンの芯に使うなど、新たな展開をみせています。
柳宗理の愛したラミーのボールペン・万年筆は、ラミー サファリ(LAMY Safari)シリーズです。1980年に発売が開始されたサファリは、当時先進的なデザインとして若者に絶大な人気を誇りましたが、現在も超定番の文具として販売が続けられています。また、現在はシャープペンも加わっています。
柳宗理によると、ラミーのボールペン・万年筆は、簡素・頑丈・使いやすい、の三拍子がそろっており、現代の工芸品として誇れるものだとしています。また、柳宗理はプラスティックの肌触りが良いと述べています。おそらくブランドアンブラが特にお気に入りだったのではないでしょうか。
柳宗理の審美眼とは何か
柳宗理の審美眼は一口で説明することは難しいですが、大きく分けると、以下の4つの特徴があるといえます。
・1.機能から生まれる美
柳宗理は「デザインは人が生活で使うためのもの」という考えを貫き、形は必ず用途から導かれるべきとしました。意図的に作る美ではなく、使いやすさの追求のなかから自然に生まれる美を重視しています。
・2.民藝思想の継承
父・柳宗悦が提唱した「用の美」の理念を受け継ぎ、無名の職人が作る道具や生活のなかで磨かれた形に敬意を払いました。工業製品が主流の現代においては、大量生産を否定せず、そこに手仕事の精神(クラフトマンシップ)に代わる、プロダクトマンシップを宿すことを試みました。
・3.流行に左右されない普遍性
装飾や時代の流行に依存せず、長く使える形状を追求しました。鍋やカトラリーなど、何十年経っても色褪せないデザインは生活に溶け込み、愛着を持って使い続けられます。
・4.暮らしに溶け込む道具
手に取った瞬間に心地よく、使い続けるほど生活になじむことを目指しました。結果として、現代の「少ないもので豊かに暮らす」ライフスタイルやサステナブル志向とも高い親和性を持っているといえるでしょう。
まとめ
本記事では、柳宗理が愛したプロダクトを紹介しました。どれも「用の美」が息づいており、手に入れたいと思ったプロダクトがあった方も多いのではないでしょうか。
今回は購入しやすい市販品を中心に紹介しましたが、柳宗理は骨董市や民芸店、人づてなどで手に入れた品々も広く紹介しています。柳宗理の精神にならって、自分の感性に響く道具を見つけるのも、生活を豊かにする大きな喜びとなるでしょう。

